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手術内容

膵臓外科

膵臓外科のエキスパートである廣野主任教授を中心に膵癌や膵嚢胞性腫瘍などの膵臓疾患に対して手術を行っています。術前化学療法後や血管合併切除を必要とする患者さんに対する高難度手術や、膵体尾部の腫瘍に対する腹腔鏡下膵体尾部切除術を積極的に行っています。

● 膵臓の位置、はたらき

膵臓はみぞおちの少し下、胃のうしろ側(背中側)にある臓器で、胃、十二指腸、肝臓、脾臓に囲まれています。その形から、おたまじゃくしに例えられ、頭部、体部、尾部に分けられます。(図1)

膵切除が必要な場合、その病気が存在する部位によって手術術式が異なります。膵頭部の病変であれば膵頭十二指腸切除術が行われます。体部および尾部の病変では膵体尾部切除術を行います。病変が全ての膵臓に及べば膵全摘出術が必要となることがあります。その他、以下に示すような様々な術式があり、患者様それぞれにあった術式を選択しています。

1.膵頭十二指腸切除術(すいとうじゅうにしちょうせつじょじゅつ)

膵頭部にできた膵臓がんやその他膵腫瘍を摘出するために行います。膵臓のあたま側を切除しますので、(図1)の上腸間膜静脈(門脈)のあたりで膵臓を切離します。また、膵頭部は十二指腸にぴったりくっついており、十二指腸も同時に切除する必要があります。胆汁が流れる『胆管』も膵頭部を通過していますので、胆管、および胆嚢も摘出する必要があります。(図2)

図2の範囲を切除した後、膵液や胆汁、食事の通り道を作り直す必要があります。これを『再建』といいます。当科では(図3、図4)のような再建方法を行っています。

膵臓がんの場合、膵臓周囲や総肝動脈や上腸間膜動脈といった主要血管の周辺のリンパ節を摘出する必要があり、これをリンパ節郭清(かくせい)といいます。また、必要であれば、後に示す通り 、門脈や総肝動脈といった血管を同時切除、再建する場合があります。
良性あるいは低悪性度腫瘍の場合には腹腔鏡(ふくくうきょう)下膵頭十二指腸切除術という、傷の小さな手術術式を行うことがあります。

2.膵体尾部切除術(すいたいびぶせつじょじゅつ)

膵臓の尾側(体部、尾部)の腫瘍に対しては、膵体尾部切除術を行います。(図5)

脾臓(ひぞう)という臓器は膵尾部にくっついており、膵体尾部切除術では同時に切除することが必要です。脾臓を摘出した後に、肺炎球菌という菌による感染が重篤化し、時に死に至ることがあります(脾摘後重症感染症; overwhelming postsplenectomy infection OPSI ))ので、予防のための肺炎球菌ワクチンの接種が必要となります。
膵体尾部切除の場合は基本的に全例で腹腔鏡下膵体尾部切除術をおこなっています。(腫瘍が非常に大きい場合や、他の臓器に浸潤している場合には、安全を考慮して開腹術とすることがあります。)膵臓がんの場合、転移の可能性のある膵周囲のリンパ節やがんが直接浸潤する周囲の脂肪組織をしっかり切除する必要がありますが、当科ではこれも腹腔鏡下に行っています。(図6)

3.膵中央切除術(すいちゅうおうせつじょじゅつ)

膵体部にできた腫瘍に対して行う術式です。主に悪性度の低い腫瘍、すなわち、膵神経内分泌腫瘍(P-NET)や膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、膵粘液性嚢胞腫瘍(MCN)、Solid Pseudopapillary Neoplasm(SPN)に対して行われます。リンパ節郭清が必要な膵臓癌は適応外です。膵臓の中央の一部分のみを切除します。(図7)この場合、膵臓の残った尾側と空腸をつなぐ必要があります。

膵頭部、膵尾部が温存されるため、術後の膵臓機能が温存されることが膵中央切除術の大きなメリットです。膵臓の内分泌機能(インスリンなどのホルモンを分泌する)、外分泌機能(膵液を分泌してタンパク質や脂肪を消化する)が温存されるため、他の術式と比べて糖尿病が起こりにくく、また、栄養状態が保たれます。(Horono, et al. J Gastrointest Surg. 2009)

4.膵全摘術、残膵全摘術(すいぜんてきじゅつ、ざんすいぜんてきじゅつ)

がんが膵臓全体に広がっており、膵臓を全て取り除く必要がある際には膵全摘術を行います。これは膵頭十二指腸切除術と膵体尾部切除術を同時に行う術式で、膵臓はすべて摘出するため膵臓と空腸をつなぎ合わせる必要はありませんが、胆汁、食事の通り道を作り直す必要があります。(図8)また、一度膵頭十二指腸切除術が行われた方の残った膵体尾部に腫瘍ができた場合、あるいは、膵体尾部切除術が行われた方の残った膵頭部に腫瘍ができた場合に、残膵全摘術を行うことがあります。

膵臓を全摘出すると、膵臓のはたらきである内分泌機能、外分泌機能が全て失われます。つまり、インスリンなどのホルモンや膵液という消化酵素が産生できなくなります。それを補うためにインスリン注射や消化酵素剤の内服が必要となります。近年、いずれの薬も性能がよくなっており、膵臓を全摘しても生活の質を落とすことなく、通常通りの生活が送れるようになっています

5.膵腫瘍核出術

膵神経内分泌腫瘍(P-NET)の一部など、悪性ではないが、放置しておくと大きくなったり癌化するおそれがある場合に行われます。腫瘍のみをくり抜く術式であり、ほとんどすべての膵臓が温存されることが最大のメリットです。(図9)ただし、膵液の通り道である膵管から離れている場合にしか行うことができません。

6.動脈合併切除、門脈合併切除

膵臓がんが主要な動脈に浸潤している場合でも、この動脈を合併切除することにより、従来手術不能であった膵がんの方でも手術が可能となることがあります。その際には、当院形成外科と協力して、顕微鏡下に動脈再建を行っています。(図10)。

また、門脈、上腸間膜静脈は積極的に合併切除、再建を行うことにより、切除率向上に努めています。(図11)

7.コンバージョン手術

以前より、膵臓がんは見つかった時点で7割は手術ができず(切除不能)、手術ができる方は2-3割と言われてきました。近年、ゲムシタビン+ナブパクリタキセルや FOLIFIRINOX 療法といった抗がん剤を使用することでがんが小さくなったり転移が消失したりすることで、切除不能と診断された方が切除可能となることが増えてきています。これを コンバージョン手術と言います。(図12)コンバージョン手術ができれば、予後が延長したり、根治が得られる可能性があります。
当科では、初診時に既に転移があったり、主要血管に浸潤があることで切除不能と診断された方に、できるだけ早期に十分な抗がん剤治療を行うことで、積極的にコンバージョン手術を目指します。

肝臓外科

肝臓はお腹の右上にある11.5kgの巨大な臓器で、私たちの生命維持に欠かせない たんぱく質の合成、解毒、胆汁の産生などの重要な働きをしています。この肝臓の一部を切り取る手術が肝切除術です。肝切除術の対象となる病気は、肝臓がん(原発性肝がん:肝細胞がん、胆管細胞がん)が大部分ですが、その他に転移性肝がん、胆管がん、胆嚢がん、肝内結石、肝良性腫瘍、肝嚢胞などが対象となります。
肝臓は大きく分けて右葉、左葉の二つの葉からなり、さらに8つの部分(亜区域)に分けられます(図1、2)。肝切除術は、切り方によって系統的肝切除(門脈の還流領域に沿って切除)と非系統的肝切除(肝部分切除)(還流領域と関係なく、腫瘍の辺縁から距離をとって切除)に分けられます。系統的肝切除には、亜区域切除、区域切除、葉切除、拡大葉切除、3区域切除などがあります(図3)。 基本的に、肝細胞がんに対して系統的肝切除を、転移性肝がんに対して非系統的肝切除(肝部分切除) が行われます。 しかし、肝機能と腫瘍の位置により、肝細胞がんに非系統的肝切除(肝部分切除)が、転移性肝がんに系統的肝切除が選択されることもあります。尚、肝切除術は腫瘍の位置と大きさにより、おなかを開けて行う開腹手術と、小さな孔を数個あけて行う腹腔鏡手術の二通りがあります。肝臓は生命維持に不可欠な臓器であり、全部を切り取ることはできませんが、正常の肝臓では、 最大約65〜70%切除しても大丈夫とされています。しかし 、肝がんは慢性肝炎、肝硬変を背景として発生することが多く、肝臓は正常に比べて機能が低下しており、大きく切除しすぎると残りの部分で生命を維持できない状態(肝不全)になる危険があります。どのくらい切除できるかという肝臓の力を肝予備能といい、手術に際してはこの肝予備能を正確に評価することがきわめて重要なため、いくつかの検査を組み合わせて判断します。また、肝臓の血管の走行は個人により異なるためCTを用いた3Dシミュレーションシステムを用いて皆様の肝臓内の血管の走行を術前に把握し、併せて切除予定肝体積を算出して安全に肝切除が行えるようにしています。

● 肝の区域分類

● 肝切除術

当科では高度進行肝細胞がんや大腸がん肝転移に対して抗がん剤治療を行って腫瘍を縮小させてから切除を行うコンバージョン手術を積極的に行っています。また、半数以上の手術を傷が小さい腹腔鏡下手術で行っています。最近では、蛍光色素を使って腫瘍や切除の領域を認識する蛍光ガイド下手術を導入しています。

1.高度進行肝がんに対するコンバージョン手術

大腸がん肝転移は転移が何個であろうと完全切除できれば治癒の可能性があります。肝臓の左右に広がるような進行がんの場合はまず抗がん剤治療を行って腫瘍を縮小させまずが、それでも通常の方法では切除が難しい場合があります。この様な場合でも、手術前に切除する側の肝臓に流れる血管を詰めて残る側の肝臓を肥大させる門脈塞栓術や、肝切除を2回に分けて行い、その間に門脈塞栓術を行う二期的肝切除などの手法を用いることで、腫瘍が何個あっても可能な限り切除を行っています。また、有効な抗がん剤の開発により、これまでには困難であった肝細胞がんのコンバージョン切除も行っています。

大腸がん多発肝転移に
対する2期的肝切除
大腸がん多発肝転移
に対する2期的肝切除
大腸がん多発肝転移
に対するコンバージョン
肝切除

2.腹腔鏡下肝切除術

肝臓の腫瘍に対する肝切除は腹腔鏡下手術を原則としており、半数以上は腹腔鏡下手術を行っています。従来の開腹下手術では大きくおなかを切って手術をする必要がありましたが、腹腔鏡下手術では小さな傷で手術を行うことで術後の痛みが少なく、回復も早くなります

3.蛍光ガイド下肝切除術

蛍光色素を用いてがんを光らせることで肉眼では確認できない腫瘍の発見に役立てています。また、肝切除の範囲を蛍光色素で染め分けることで精密な肝切除に役立てています。MIPS(Medical Imaging Projection System)というプロジェクションマッピングの技術を応用した最新の医療機器を用いることで開腹手術でも蛍光ガイド下手術を行っています。

胆道外科

肝臓で生成・分泌される胆汁は“胆管”を通って十二指腸へ放出されます。この胆管にできる癌を“胆管癌”と呼びます。初期には症状はなく、癌が進行し胆管が塞がれると、黄疸の症状がでてきます。胆管は解剖学的に構造が薄く、癌ができると隣接する肝臓、膵臓という臓器だけでなく、門脈、肝動脈、神経組織などへ早期から浸潤する特性があり、画像診断が進んだ現在でも進行癌で発見されることが少なくなく、治りにくい癌のひとつです。
治療法は主に①手術 ②化学療法(抗癌剤)③放射線治療がありますが、現時点では癌を取りきる手術(根治術)ができれば①が最も治療成績が優れています。
胆管は肝臓の中で枝のように拡がり、次第に太く集結し、肝臓の外では1本の管となり、途中、胆嚢と合流し、最後は十二指腸へとつながります。肝臓内の胆管は肝内胆管、胆嚢管より肝臓側の胆管を肝門領域胆管、胆嚢管より膵臓側の胆管を遠位胆管 、胆管の出口を乳頭部と言います。(図1)

肝内胆管がんの手術は、がんの位置により術式がことなります。がんが肝表面より深く血管の近くに位置する場合は、系統切除術を行います。がんが肝表面近くに位置する場合は非系統切除術(肝部分切除術)を行います。
肝門部領域胆管がんは、がんの場所が右の胆管に位置している場合(右側優位)は、肝臓の右側と背側を切除します(肝右葉切除術+尾状葉切除)。さらに、肝外胆管も切除し、胆汁の流れる通路を小腸を用いて作ります(胆道再建)(図2)。
がんが左の胆管に位置している場合(左側優位)は、肝臓の左側と背側を切除します(肝左葉切除術+尾状葉切除)。さらに、肝外胆管も切除し、胆汁の流れる通路を小腸を用いて作ります(胆道再建)(図3)。

肝門部領域胆管がん(右側優位)

肝右葉切除術 + 尾状葉切除葉 + 胆道再建

肝門部領域胆管がん(左側優位)

肝左葉切除術 + 尾状葉切除葉 + 胆道再建

遠位胆管がん、乳頭部がんについては、膵頭がんと同じく膵頭十二指腸切除術を行います。(図4)

遠位胆管がん・乳頭部がん

膵頭十二指腸切除術

胆嚢がんは、進行度に応じて術式がことなります。早期であれば胆嚢摘出術を、進行していれば胆嚢を含む肝部分切除+肝外胆管切除(図5)を行います。

胆嚢がん(進行している場合)
胆嚢摘出術+肝床切除術+肝外胆管切除術

胆管がんや胆嚢がんに対する手術では肝臓の切除と胆管の切除+再建や膵臓と胆管の切除+再建などの大きな手術が必要となります。当科ではそのままでは切除が困難な進行した胆道がんに対しても血管合併切除や門脈塞栓術を行って切除を行っています。

進行癌では手術だけでは治療成績が良くないため術後の補助化学療法が行われます。当科では、切除不能な胆道癌に対して全身化学療法を行い腫瘍縮小効果が得られた場合は積極的に根治切除(コンバージョン手術)を行っております。最近では、切除可能な胆道癌に対して術前化学療法の有効性を検証する無作為化第相試験(JCOG1920)が日本で行われており、当科も参加し集学的治療を行うことで治療成績の向上を目指しております。