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胆道・十二指腸

胆道がん

① 胆道とは?

胆汁(たんじゅう)という消化液が肝臓で作られ ます。「胆道」は、肝臓から十二指腸まで胆汁が通る管のことです。胆汁は、胆道を通って十二指腸に運ばれ、食べ物の脂肪成分の消化と吸収に重要な役割を果たします。「胆道」は、場所によって 肝内胆管、肝外胆管、胆嚢(たんのう)、乳頭部(ファーター乳頭)に分けられます。肝外胆管は肝臓に近いところと遠いところに分けられ、近いところを「肝門部領域胆管」、遠いところを「遠位(えんい)胆管」と呼びます(図1)。

  • 肝内胆管は、肝臓の中の胆管です。
  • 肝外胆管は、肝臓から十二指腸まで胆汁が通る管のことで、長さは約10~15cmで太さは0.5~1cmです。
  • 胆嚢は、ひょうたん型の袋状の臓器で、胆汁を一時的に貯めて濃縮します。大きさは長さ7~10cm、幅3~10cm位です。食事をすると胆嚢は収縮し濃縮した胆汁を胆管を通して十二指腸に出します。
  • 十二指腸乳頭部は胆管が十二指腸に開口する部分で、乳頭部の周りに括約筋が存在し、胆汁の流れを調節しています。

② 胆道癌について

胆道がんは、年々増加傾向にあり年間に2万人以上が新たに診断されています。膵癌と並んで難治癌の一つとされています。50歳から増え始め、70歳から80歳代の高齢者で多く見られます。がんの発生する場所により、① 肝内胆管がん、② 肝門部領域胆管がん、③ 遠位胆管がん、④十二指腸乳頭部がん、⑤ 胆のうがんに分けられます (図2)。

③ 病気の原因は?

原因は不明なことが多いですが、膵胆管合流異常や胆道拡張症といった先天性疾患がある場合には、3〜7%と比較的高率に胆道癌が発生すると言われています。また、最近では印刷業務で使用されるジクロロメタンやジクロロプロパンが胆管癌の発生リスクとして報告されています。

④ 症状は?

A)黄疸(おうだん)、褐色尿(かっしょくにょう)、灰白色便(かいはくしょくべん)

がんによって胆道が閉塞し胆汁の流れが悪くなると、黄疸が生じ、皮膚や白目の色が黄色くなったり、尿の色が濃くなったりします(褐色尿。また、腸内に胆汁が流れなくなると、便の色が白っぽくなったりします(灰白色便)。

B)発熱(はつねつ)

がんにより胆道が閉塞し、うっ滞した胆汁に感染が生じると、胆管炎を発症し、発熱がみられます。胆管炎が重症化すると敗血症(全身に細菌がまわる状態)に陥り、命に関わります。胆管炎を認めた場合、胆汁のうっ滞を解消する処置(胆道ドレナージ)を行います。

C)腹痛(ふくつう)

胆管炎を発症すると、みぞおちの痛み(心窩部痛)や右わき腹の痛み(右季肋部痛)がみられます。また、胆嚢がんでは、胆石による痛みをきっかけに発見されることもあります。

D)その他の症状

全身倦怠感、食思不振、体重減少などを認める場合もあります。黄疸の症状が出る前に、健診などの血液検査で肝機能異常を指摘されて見つかることもあります。

⑤ 検査、診断

胆道がんが疑われた場合、まず血液検査腹部超音波検査を行います。次に、

A) 胆管がん、胆嚢がんの場合は、CT検査 MRI(MRCP)検査、内視鏡検査※1、PET-CT検査を行います。
※1:内視鏡検査は、内視鏡的逆行性胆管造影検査(ERCP)、管腔内超音波検査(IDUS)、超音波内視鏡検査(EUS)など。
また、ERCPの際に、腫瘍生検、細胞診を行います。

B)十二指腸乳頭部がんの場合は、上部消化管内視鏡検査(場合によっては生検)、CT検査、MRI(FRCP)検査、内視鏡検査※2、PET-CT 検査を行います。
※2:内視鏡検査は、超音波内視鏡検査(EUS)、内視鏡的逆行性胆管造影検査(ERCP)など。
黄疸が高度である場合には胆管内にチューブを留置し、黄疸を改善させる処置(ENBD、ERBD、PTCD)が必要になります。

● 内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(ENBD)

● 内視鏡的逆行性胆管ドレナージ(ERBD)

● 経皮経肝胆管ドレナージ(PTCD)

⑥ 病期(ステージ)

肝内胆管がん、胆管がん、胆嚢がん、乳頭部がんの病期はI~IV期に分類され、T(腫瘍の大きさ、深さ)、N(リンパ節転移の程度)、M(遠隔転移)の3の因子の組み合わせで決まります。これにより腫瘍の進行度を評価した後に、患者さんの状態を考慮して患者さんに最適な治療を決めていきます。

⑦ 治療

胆道がんの治療は、手術、薬物療法が中心となります。いろいろな検査で、切除可能であるか、切除不能であるかを評価します(図3)。切除可能な症例には、手術を積極的に行っていきます。切除不能な症例(周囲の血管、臓器への浸潤や、遠くの臓器に転移している場合)は、薬物療法を行っています。切除不能な症例でも、薬物療法により腫瘍が十分縮小する場合があります。再度評価して切除可能と診断した場合は、手術(コンバージョン手術)を行うこともあります。

手術:
胆管がんではがんの場所、広がりに応じた手術術式が選択されます。一般的に、肝内胆管がんでは肝切除を、肝門部領域胆管がんの場合は肝切除(肝左葉切除または 肝右葉切除)+胆管切除を伴う術式が選択され、遠位胆管がん、乳頭部がんの場合は膵頭十二指腸切除術が選択されます。 胆嚢がんは、進行度に応じて術式が異なります。早期であれば胆嚢摘出術を、進行していれば胆嚢を含む肝部分切除+肝外胆管切除を行います。肝門部領域胆管がんに対する肝右葉切除 +尾状葉切除、胆道再建術(図4A)と肝左葉切除+尾状葉切除 、胆道再建術(図4B)を、遠位胆管がん、乳頭部がんに対する膵頭十二指腸切除術(図4C)を、進行胆嚢がんに対する肝部分切除+肝外胆管切除を(図4D)を示します。

肝門部領域胆管がん(右側優位)

肝門部領域胆管がん(左側優位)

遠位胆管がん、乳頭部がん

胆嚢がん(進行している場合)
胆嚢摘出術+肝床切除術+肝外胆管切除術

⑧ 治験・臨床試験

当科は、日本臨床腫瘍グループ(JCOG)に参加しています。現在、JCOG1920(切除可能胆道癌に対する術前補助化学療法としてのゲムシタビン+シスプラチン+S1(GCS)療法の第 III 相試験)という臨床試験に参加し、胆道癌における術前化学療法の有効性を検証しようとしています。

胆道がんに対する兵庫医大肝胆膵外科の取り組み

1)キャンサーボード

兵庫医科大学では、さまざまな検査を行った後に、外科、内科と放射線科よる合同カンファレンス(キャンサーボード)を行っています。そのカンファレンスにより、患者さんにとって最高の医療を検討し、治療方針を決定しております。

2)切除可能であれば、積極的に手術を行います。

胆道がんは、胆管に沿って広範囲に広がったり、また周囲の血管に浸潤することがしばしばみられ、技術的に手術で切除することが困難な場合が多くあります。さまざまな検査により切除可能と診断すれば、積極的に手術を行っています。

3)コンバージョン手術

がんが周囲に進行し技術的に切除できない場合、または他の臓器に転移している場合は、切除不能な胆道がんと診断されます。そのような場合は、抗がん剤を用いた薬物療法を行います。薬物療法により腫瘍が縮小し切除可能と判断した場合は、積極的に手術を行っています(コンバージョン手術)。

胆石症

● 疫学

過食や肥満、ストレスなどにより胆嚢の働きが悪くなり、胆汁がうっ滞する事で胆嚢内に結石ができ、胆石症、あるいは胆嚢結石症と呼ばれております。本邦での胆石保有率は約5%で、欧米の20%に比べると低いですが、近年は食生活の欧米化により増加傾向となっております。50-60 代の中年女性に多いとされていますが、近年は男性も増加傾向となっております。

● 症状

胆石は胆道疝痛と呼ばれる発作性の疼痛をきたし、心窩部~右季肋部、背部~右肩への痛みがあります。誘因として、主に脂肪食の摂取後に起こる事が多いです。

● 検査、診断

診断のために腹部超音波検査を行います。また、CT、経静脈性胆道造影CT(DIC-CT)やMR 胆管膵管撮影(MRCP)にて総胆管結石の有無や胆管走行の確認を行います。総胆管結石を認めた場合は内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を行い、内視鏡的乳頭切開朮(EST)にて採石を行います。

● 治療

疼痛などの症状がない場合は経過観察が可能ですが、症状を認めた場合は原則として手術を行います。結石のみを取り除いても再発する事が多いため、胆嚢ごと摘出します。通常は腹部に5-10mm大の孔を数か所開けて行う腹腔鏡下手術を行います。総胆管結石を認める場合はまず上述する採石を行い、後日胆嚢に対する手術を行います。内視鏡での採石が不可能であった場合は手術で総胆管結石に対する採石と胆摘を同時に行います。

胆嚢ポリープ

● 疫学

胆嚢の内膜の粘膜の盛り上がりを胆嚢ポリープと言います。コレステロール、腺腫性、炎症性、過形成性ポリープといった種類があり、頻度は5-10%であり、健診で発見される事が多いです。良性疾患に分類されますが、大きさが大きくなると癌化のリスクがあるため治療が必要となります。

● 症状

基本的には無症状です。ただし癌化した場合は疼痛や体重減少など、胆嚢癌の症状が現れる事があります。また、ポリープが脱落して頚部に嵌頓すると、胆石と同様の腹痛発作が現れる事があります。

● 検査、診断

胆石と同様に腹部超音波検査、CT、DIC-CT あるいはMRCPを行います。良性のポリープ大きさが大きく癌化の可能性がある場合は造影CTや超音波内視鏡検査を行う事があります。

● 治療

ポリープが小さ い場合や 多発する場合は良性ポリープの事が多いため、定期的な経過観察 が行われます。単発で10mm以上の病変や、茎が太い(広基性)の場合、あるいは増大傾向が認められる場合は癌化の可能性あるため手術が必要となります。胆石と同様に腹腔鏡下胆嚢摘出術が行われますが、癌化の可能性が高い場合は開腹手術を行い、状況に応じて肝 臓の一部や周囲リンパ節の郭清を行います。