最新治療

肝 臓

肝細胞がん

● 疫学

肝臓にできる悪性腫瘍の一つで、肝臓の細胞ががん化したものです。年間約38000人(2018年)が肝臓がんと診断され、結腸・直腸、肺、胃、乳房、前立腺、膵臓に次いで7番目に多いがんです。B型、C型慢性肝炎、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪肝炎、肝硬変などの慢性肝疾患のある方に発症しやすいがんですが、これらがなくても発症することもあります。
5年生存率は、肝臓に限局する病変では50%、遠隔転移がある場合は4%程度とされています。病期別には、Ⅰ期:63%、Ⅱ期:45%、Ⅲ期:16%、Ⅳ期:4%程度といわれています。

● 症状

肝臓は「沈黙の臓器」とも言われており、がんの初期ではほとんど症状がないため、他の病気の検査や定期健診で指摘されることも少なくありません。進行した状態になると、黄疸(皮膚や目が黄色くなる)、倦怠感、腹部膨満(腹水)、腹部にしこりや圧迫感・痛みなどが生じることがあります。
診断時無症状な場合、「肝細胞がんと診断されても信じられない」という気持ちになられる方も多いですが、「まだ大丈夫」とは思わずに「症状の出ないうちに見つかった」と考えていただき、主治医と相談のうえで適切な治療に臨んでいただくことが大切です。

● 検査

より正確な診断や切除が可能かどうかの判断のため、複数の検査を受けていただき、総合的に診断することがほとんどです。

1)超音波(エコー)検査

からだの表面に当てた器械から出た超音波の反射を画像化して観察します。造影剤を用いて観察することもあります。あまり痛みはありません。通常30分程度、造影を使用する場合でも1時間程度の検査です。

2)CT検査

からだの周囲からX線をあてて、通過する際の吸収率の違いを画像化して観察します。大きくて短いトンネルの中を通過するベッドに横たわる検査です。単純CTなら10分、造影CTでも30分程度の検査です。

3)MRI検査

強力な磁場に体を置いて、電波を当てた際のはね返りを画像化して観察します。CTより長くて細いトンネルの中にしばらく入って撮影します。単純MRIは30分、造影MRIでは注射があり1時間程度かかる検査となります。狭い空間に入りますが、問題があれば知らせることができるようになっています。

4)FDG-PET検査

FDG(放射性フッ素を付加したブドウ糖)を注射し、がん細胞に取り込まれたブドウ糖の分布を画像化して観察します。全身へのがんの広がりの検索に使われます。

5)血液検査(腫瘍マーカー)

腫瘍特異的に血液中に増加する物質を調べます。肝細胞がんでは、AFP、PIVKA-Ⅱ、AFP-L3などが測定されます。

これらの検査を組み合わせて、腫瘍の大きさや個数、リンパ節や他臓器への転移の有無などを診断します。一つの検査での病状把握は困難ですので、何度か病院に足を運んでいただく必要があります。

● ステージと治療選択

肝細胞がんの進行の程度は、病期(ステージ)として分類されます。腫瘍の大きさや個数、遠隔転移の有無などでⅠ~Ⅳ期に分類され、治療選択の参考とされます。

肝がん診療ガイドラインでは、肝機能(Child-Pugh分類)、腫瘍大きさ、個数、遠隔転移の有無を基準に、推奨療法を示しています。治療は、ガイドラインに示された治療を基本にして、年齢や他の疾患、何よりも治療を受けられる方の希望や生活背景を考慮して選択されます。主治医とよく話し合って治療を選択していただくことが大切です。

● 治療法

1)局所治療(肝臓を対象)

a)外科的切除
全身麻酔下に開腹または腹腔鏡下にがんを切除します。局所治療効果は高いですが、他に比べてからだへの負担が重いです。

b)ラジオ波焼灼
体外からがんに針を刺して、電気(ラジオ波)を流して焼灼します。切除より負担は軽いですが、腫瘍の個数や大きさと場所で制限があります。

c)経肝動脈カテーテル治療
カテーテルを肝臓の動脈に送り、抗がん剤を入れて栄養血管を閉鎖します。個数や大きさで制限はありませんが、複数回行う必要があることがあります。

2)全身治療(薬物療法/免疫療法)

内服または点滴で投薬を行い、がんの増大抑制を目指します。病状の進行度合いや副作用に応じて、薬剤を使い分けます。

3)肝移植

本邦では、近親者から肝臓の一部の提供を受ける「生体肝移植」が主に行われます。脳死後のドナーから肝臓の提供を受ける「脳死肝移植」も行われています。

4)集学的治療

様々な治療法を組み合わせて行うことを、集学的治療と呼んでいます。特に、最近の肝細胞がんに対する治療成績の向上により、いったん外科的切除が不能と診断されても、薬物療法で縮小が得られた場合に外科的切除を追加し、さらなる治療成績の向上を目指す取り組みがされています。

肝細胞がんに対する
兵庫医大肝胆膵外科の
取り組み

外科のみでなく、肝胆膵内科や放射線科と密接に連携し治療を行っています。そのため、上記のうち肝移植を除くすべての治療に対応しております。

① 体の負担を減らす:
腹腔鏡下肝切除

大きく開腹せずに、1cm程度の傷で複数(5-6)箇所に器具を挿入し、内視鏡(腹腔鏡)下で切除を行うことで、体への負担を減らし、術後在院期間を短縮できるとされています。従来開腹で行っていた多くの肝切除術式が保険適応下で施行可能です。腫瘍の大きさや術式によっては、開腹手術が選択されることもあります。

② より正確で最小限の切除:
術前シミュレーションとICGナビゲーション

術前にCT画像から患者さん個別の肝臓を3D画像化して、腫瘍の正確な位置や温存すべき肝内の血管を確認します。術中にインドシアニングリーン(ICG)の発する蛍光を用いて、腫瘍を発見したり、切除すべき範囲を表示させて、正確で最小限の切除を施行します。

③ あきらめない外科治療:
コンバージョン手術

巨大、多発など、当初切除不能と診断されても、薬物療法により腫瘍の縮小が得られたり、急な増悪がないことが確認できた場合は、外科的切除(コンバージョン手術)を行います。これにより、腫瘍による症状(痛みなど)の軽減、腫瘍破裂/出血の予防を含めた、治療成績の向上を図ります。

④ 再発してもあきらめない治療:
再発に対する外科切除

肝細胞がんは再発しても、切除をはじめ初回同様の治療が有効であることが知られています。治療可能状態での発見が重要なので、当院の内科、放射線科のみでなく、地域近隣の先生方と連携して早期の発見に努めております。再発してもまだまだ外科切除を含めた有効な治療があることを知っていただき、主治医に相談ください。

転移性肝がん

● 疫学

転移性肝がんは肝臓から発生するがんではなく、ほかの臓器に発生したがん(原発巣)が肝臓に転移したことでできるものです。大腸がん・胃がん・膵がんなどの消化器癌が多く、乳がん・肺がん・頭頚部のがん(咽頭がんや喉頭がんなど)・婦人科系のがん(卵巣がんや子宮がんなど)・泌尿器系のがん(腎臓がんなど)・神経内分泌腫瘍などが原因となります。

● 症状

初期には症状が出ることはほとんどありません。転移性肝がんが大きくなると、体や白眼が黄色くなる黄疸や右わき腹の痛みなどの症状がでることがあります。

● 検査・診断

転移性肝がんは大きくなるまでは症状が出ないことが多く、もともとのがんの発見時の検査(CTやエコーなど)やがんの経過観察中の検査、健康診断などで発見されることが多いです。転移性肝がんが疑われる場合、造影剤を用いた超音波検査、CTやMRI検査を行ってがんの広がりを確認します。また、肺やリンパ節など他の臓器への転移の有無を確認するためにPET-CT検査を行うことがあります。

● 治療

転移性肝がんは、ほかの臓器からの転移ですので通常はがんの進行度はステージ4となります。ただし、大腸がんと神経内分泌腫瘍からの転移では手術によって肝転移がすべて取りきれた場合、がんが治る(治癒する)可能性がありますので、可能な限り手術を行います。個数が多い場合、大きくてそのままでは手術で取りきることが出来ない場合でも、まず抗がん剤治療を行って腫瘍を小さくしてから手術(コンバージョン手術)を行う方法もあります。
その他のがん(胃がんや腎がんなど)からの転移性肝がんは、抗がん剤治療などそのがん(原発巣)に対する治療を優先しますが、抗がん剤治療などでがんが長期間おとなしくしている場合は手術を行うことがあります。

大腸がん肝転移に対する
兵庫医大 肝胆膵外科の
取り組み

① 技術的に切除可能であれば原則手術

大腸がんは肝臓や肺など他の臓器に転移していても手術によりがんが治る(治癒する)可能性がありますので可能な限り切除の可能性を追求します。逆に抗がん剤治療のみでは延命効果はあるものの、がんが治る可能性はほとんどありません。 多発している場合や肝臓の他に転移がある場合などでも、再発する可能性は高いものの治る可能性はゼロではありません。例えば当院で手術を受けられた患者さんを調べてみると、10個以上の転移がある場合とそれ以下の手術後の成績を比較すると、再発率は10個以上の場合の方が高いものの生存率には差がありませんでした。また、1回の手術では再発してしまっても、再発したがんを再度切除することで、その後の再発が起こらないこともあります。
よって当院では単純に個数や他の臓器への転移の有無などのみで手術の適応を判断することはせず、個々の患者さんの病状に合わせて治療法を検討します。

② コンバージョン手術

大腸がん肝転移は見つかった時には手術で取りきれないほどにがんが肝臓に広がってしまっていることがあります。この場合はまず抗がん剤治療を行います。抗がん剤の効果により、がんが小さくなることで手術で取りきれないと判断されていた肝転移が手術可能となることがあります。これをコンバージョン手術と呼びます。コンバージョン手術により手術が可能であった患者さんは、もともと手術可能であった患者さんと同じ程度に手術でがんが治る可能性があるとされています。

③ 門脈塞栓術、2期的肝切除

大腸がん肝転移が肝臓の広い範囲に散らばっている場合、手術ですべてがんを取りきると生命を維持するために必要な肝臓の大きさ(もとの大きさの30から40%残ることが必要とされています)が残らないことがあります。こういった場合、あらかじめ肝臓に流れ込む血管の一部をカテーテルで塞いで残る肝臓を大きくする方法があります(門脈塞栓術)。例えば、右側の肝臓を切除した後に残る左側の肝臓が小さい場合には、まず右側の血管をカテーテルで塞ぎます。3〜4週間経つと左側の肝臓が1.5倍程度に大きくなりますので、この後で手術を行うことで安全に手術が可能となります。また、肝臓の左右両側にがんが広がっている場合には、肝臓の切除を2回に分けて、門脈塞栓術と組み合わせる方法(2期的肝切除)を行うことがあります。この場合、まず残る側の肝臓にある数個の肝転移を切除し、その後大きく取る側の血管をカテーテルで塞ぎます(門脈塞栓術)。3〜4週間後に残る側の肝臓の肥大を待って、取る側の大きな肝臓を切除します。

肝嚢胞性疾患

● 疫学

肝嚢胞とは肝臓の中に袋状に液体のかたまりができる状態で、多くの場合は良性であり特に治療を必要としません。多くは中高年層にみられ 、性別では女性が多いとされています。このほかに、肝臓に嚢胞が多発する多発肝嚢胞という状態もあり、この場合は腎臓など他の臓器にも嚢胞が多発していることがあります。嚢胞が多発していても肝臓の機能は保たれていることが多いです。ごくまれに嚢胞の中に悪性の細胞が存在する嚢胞腺がんであることがあります。

● 症状

肝嚢胞は、健康診断や他の病気の検査のための腹部エコー、CT、MRIなどで偶然発見されることが多いです。単純な肝嚢胞だけであれば自覚症状がでることは少ないです。嚢胞が多発していたり、大きかったりする場合は肝臓やまわりの臓器を圧迫することで症状が出現します。症状としては、まずおなかの張り・右わき腹の痛みや圧迫感が出現し、嚢胞が巨大な場合は体の外からできものが触れることもあります。

● 検査・診断

超音波検査、CT、MRIなどが行われます。悪性が疑われる場合は、造影剤を用いた超音波検査、CT、MRIなどで精密検査を行います。

● 治療

無症状で単純な肝嚢胞の場合は特に治療を必要としません。嚢胞が大きい場合、多発している場合などで治療を行う時には 穿刺吸引療法 、硬化療法、嚢胞壁切除術、肝移植などの治療があります。体外から針を刺して中身を吸引する穿刺吸引療法や内部に薬液を注入する効果療法は一時的に有効ですが再発することが多いです。当科では腹腔鏡手術により肝嚢胞の壁を一部切除する腹腔鏡下肝嚢胞天蓋切除術を第一選択としています。また、悪性が疑われる場合には、嚢胞を傷つけることなく取りきることが必要ですので、肝切除術を行います。