胆道がん
肝内胆管がん
● 疫学
肝内胆管がんは原発性肝がんの約5%に認めます。病因は明らかではなく、肝細胞がんのようにスクリーニングによる集団検診、早期発見が困難な癌腫です。そのため腫瘍がある程度大きくなって発見されることが多いことが特徴です。
● 症状
臨床症状は、肝細胞がんと同様、特徴的な症状はありませんが、肝内の胆管から発生するため腫瘍が大きくなることで胆汁の流れが悪くなり黄疸が出現することがあります。
● 検査、診断
造影剤を用いた超音波検査、CT検査やMRI検査を行ってがんの広がりを確認します。また、肺やリンパ節など他の臓器への転移の有無を確認するためにPET検査を行う事があります。
● 治療
治療は外科切除が基本となります。肝機能は正常であることが多く、腫瘍の局在によっては 広範囲の肝切除を行う場合もあります。肝細胞がんと異なりリンパ節に転移しやすい 特徴があり、「郭清」といって肝切除時に周囲のリンパ節を一緒に取り除く手術を行います。しかしながらリンパ節転移例や多発例は外科切除を行っても早期に再発する可能性が高く、そのような患者さんには当科では薬物療法を先行して行った後の切除を検討しています。診断時に切除不能と判断された患者さんであっても薬物療法で切除可能となり、 実際に外科切除(コンバージョン手術に至った例も当科では経験しています。数多くの肝内胆管がんの治療経験から蓄積されたデータを活かし、我が国で初めての肝内胆管がん診療ガイドラインの作成2020年初版)にも携わりました。多くの臨床試験にも参加しています。当科では手術の前後に抗がん剤治療を積極的に行う集学的治療をしており、難治の消化器がんの1つである肝内胆管がんの治療成績は改善しています。
肝門部領域胆管がん
● 疫学
肝内の胆管が集まり1本となって肝外に出ていき、さらに胆嚢と合流します。この領域でできるがんを「肝門部領域胆管がん」といいます。肝門部領域胆管がんは、動脈や門脈といった肝臓に入っていく血管がすぐそばに走行しており、手術の難易度が高くなります。
● 症状
がんにより胆管内の胆汁の流れが悪くなると、黄疸がでてきます。黄疸になると、皮膚や目の白目が黄色くなります。また、胆汁が腸に排出されなくなると、便が白くなります。黄疸の症状が出る前に、健診などの血液検査で肝機能異常を指摘されて見つかることもあります。
● 検査、診断
肝門部領域胆管がんが疑われた場合、まず造影剤を用いたCTを行います。がんの場所と広がり、血管への浸潤の有無を評価します。CTによって診断が明らかになった場合、内視鏡的逆行性胆管造影検査(ERCP)、超音波内視鏡検査(EUS)、管腔内超音波検査(IDUS)、MRIあるいは MRCP、PET検査などを行い、詳しく調べます。胆管が閉塞し黄疸が出現した場合は、胆管にチューブを留置し、黄疸の改善を行います。
● 治療
肝門部領域胆管がんでは病変の胆管を含む肝臓を切除します。肝臓の右側(右葉)、または左側(左側)を切除することが多く、通常は8〜10時間といった長時間の手術になります。切除する肝臓が大きい場合、手術前に肝臓に流入する血管を詰めて残る肝臓を大きくする必要があります(門脈塞栓術)。また 、胆管の周りにある肝動脈、門脈といった重要な血管にがんが浸潤している場合は、血管の合併切除を行います。他の臓器に転移したり 胆管内に広範囲に広がっている場合は手術することができず、薬物療法を行います。薬物療法により腫瘍が縮小し手術可能と判断した場合は、手術(コンバージョン手術)を行うこともあります。
胆嚢がん
● 疫学
肝臓から十二指腸に流れる胆汁の経路を胆管といい、胆嚢はその胆管の途中にある袋状の臓器です。胆汁を一旦貯めておく貯水池の役割があり、食事をすると、胆嚢が収縮し貯めてある胆汁が胆管に流れます。胆嚢と胆嚢管にできるがんを胆嚢がんといいます。女性に多く(男性の1.5から2倍)、60歳代に多くみられます。50%から60%で胆石を伴います。
● 症状
症状は、胆石が併存した場合は 胆嚢炎の症状(発熱、右上腹部痛がみられます。がんが進行すると胆管を閉塞し黄疸がみられたり、腫瘤を触知します。
● 検査、診断
胆嚢がんが疑われた場合、超音波検査、CT、MRI、超音波内視鏡検査(EUS)、PET-CTなどによって、診断します。黄疸がある場合、胆管にチューブを入れて、黄疸を改善させる処置が必要になります。
● 治療
胆嚢がんの治療法としては手術による切除、薬物療法などがありますが、根治を望める唯一の治療は切除です。早期がんの場合は、胆嚢を切除するだけです (胆嚢摘出術)。進行がんの場合は、胆嚢と肝臓の一部を切除します(胆嚢摘出術+肝床切除術 。また、高度に進行している場合は、肝臓を多く切除したり、総胆管を切除します。また、周りの臓器を一部切除することもあります。
当科では、ICG(ジアグノグリーン)を用いて胆嚢動脈の還流領域をナビゲーションシステム(ICG蛍光ナビゲーションシステム)にて決定し、肝切除を行っております。他の臓器に転移していたり、切除後に再発した場合には、薬物療法を行います。薬物療法により腫瘍が縮小し手術可能と判断した場合は、手術(コンバージョン手術)を行うこともあります。
遠位胆管がん
● 疫学
胆管がんのうち、胆嚢管合流 部から十二指腸壁に貫入する部分までの胆管に発生した癌を遠位胆管がんといい、70〜80歳代の男性に多い傾向があります。
● 症状
がんによって胆汁の流れが悪くなると、黄疸が生じ、皮膚や白目の色が黄色くなったり、尿の色が濃くなったりします。また、腸内に胆汁が流れなくなると、便の色が白っぽくなったりします。その他に腹痛や発熱、全身倦怠感、食思不振、体重減少などを認める場合もあります。
● 検査、診断
血液検査や超音波検査で胆管癌が疑われた場合には、CTやMRI、PET-CT検査などを追加し、確定診断を付けると共に病期ステージ分類を行います。また、黄疸が高度である場合には胆管内にチューブを留置し、黄疸を改善させる処置が必要になります。
● 治療
遠位胆管がんの治療法としては手術、薬物療法、放射線療法などがありますが、根治を望める唯一の治療は手術です。遠位胆管は膵臓の中を通るため、手術は膵頭部がんと同様に膵頭十二指腸切除を行います。他の臓器に転移していたり切除後に再発した場合には、薬物療法や放射線療法などで予後の延長や症状の緩和に努めます。薬物療法により腫瘍が縮小し手術可能と判断した場合は、手術(コンバージョン手術)を行うこともあります。
十二指腸乳頭部がん
● 疫学
胆管と膵管が十二指腸に開口する部位を十二指腸乳頭(Vater 乳頭)と言い、この部位に発生した癌を十二指腸乳頭部がん(Vater 乳頭部がん)と言い、胆道がんに分類されます。希少がんであり正確な発症率は不明ですが、男性に多い傾向にあります。胆道がん登録症例の集計によりますと、乳頭部がんの根こそぎ切除できる確率は93.0%で、他の胆道がんに比べると高率であり、予後も比較的良好です。
● 症状
早期がんでは健診の内視鏡検査などで偶然発見されることが多く、ほとんど症状がありません。進行がんになると胆管の閉塞により胆汁の流れが悪くなり、黄疸眼球結膜の黄染や褐色尿、発熱、腹痛などの症状が出現します。
● 検査、診断
診断のためにCT、MRI、PET、内視鏡、超音波内視鏡検査(EUS)などを用います。内視鏡検査で組織の一部を採取(生検)し、顕微鏡で観察して、確定診断をつけます。超音波内視鏡検査では、腫瘍進展の範囲を調べ、CT、MRI、PET-CT検査で肝臓や肺などへの遠隔転移や、リンパ節転移の有無を調べます。黄疸や胆管炎がある場合は先行して胆道ドレナージを内視鏡下に行う場合があります。
● 治療
治療の原則は手術で、膵頭部、十二指腸、胆嚢、胆管を同時に切除する膵頭十二指腸切除術が行われます。遠隔転移や何らかの理由で手術が出来ない場合は、薬物療法が行われます。薬物療法により腫瘍が縮小し手術可能と判断した場合は、手術(コンバージョン手術)を行うこともあります。